長岡簡易裁判所 昭和41年(ハ)113号 判決 1967年5月17日
原告 杉島栄一
右訴訟代理人弁護士 金田善尚
被告 栃尾市
右代表者市長 山井龍三郎
右指定代理人吏員 田辺喜作
被告 常安寺
右代表者代表役員 坂内龍雄
主文
被告栃尾市は原告のために別紙物件目録第一記載の建物にガス事業ならびに水道事業によるガスおよび水の供給をせよ。
原告の被告常安寺に対する訴を却下する。
訴訟費用は原告と被告栃尾市との間においては原告に生じた費用の二分の一を同被告の負担としその余を各自の負担とし、原告と被告常安寺との間においては全部原告の負担とする。
事実
第一、当事者双方の申立
一、請求の趣旨
主文第一項同旨および「被告常安寺は原告のために被告栃尾市に対し別紙物件目録第二記載の土地にガス事業によるガス供給および水道事業による給水工事をなすことを承諾する手続をせよ、訴訟費用は被告らの負担とする。」
との判決を求める。
二、被告らの申立
被告らはいずれも「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求める。
第二、当事者双方の主張
一、請求の原因
(一)、原告は昭和二〇年三月被告常安寺から別紙物件目録第二記載の土地(以下単に本件土地という)を賃借し、右土地上に別紙物件目録第一記載の建物(以下単に本件建物という)を建築居住している。
(二)、被告栃尾市はガス事業および水道事業を営むものであるところ、原告居住の本件建物はその供給区域内にある。
(三)、1、原告は被告栃尾市に対して本件建物に対するガスおよび水の供給を申込んでいる。
2、ところが被告常安寺は自己が本件土地の賃貸人であることを理由に右土地にガスおよび水の供給工事をすることを拒んでいる。
3、被告栃尾市は借地上のガスおよび水の供給については賃貸人の承諾を要するとして本件建物に対する原告の申込にかかるガスおよび水の供給を拒んでいる。
(四)、しかしながら、被告栃尾市はガス、水道事業者として、被告常安寺は本件土地の賃貸人として、いずれも原告に対するガスおよび水の供給に協力する義務があるので本訴におよぶ。
二、被告らの主張
(一)、被告栃尾市の答弁
請求原因(一)、(二)、(三)の1および(三)の3の各事実は認める。
(二)、被告常安寺の答弁
請求原因(一)、(二)、(三)の1および(三)の2の各事実は認める。
(三)、被告常安寺の抗弁
原告と被告常安寺との間には本件土地に関して原告が新たに工作物を設置するときには同被告の承諾を要する旨の合意があった。
第三、証拠≪省略≫
理由
請求原因(一)、(二)の事実および(三)の1の事実は当事者間に争いがない。
請求原因(三)の3の事実は原告と被告栃尾市との間に争いがない。
しかしながら、ガス事業者もしくは水道事業者は、正当の事由なくしてその供給区域内における何人に対してもその供給を拒んではならない(ガス事業法第一六条第一項、水道法第一五条第一項)のであって、この理はガスもしくは水の供給を受けようとする者が不法占拠者である場合にあってさえ妥当するのである(大阪地裁昭和四二年二月二八日判決、判例時報四七五号二八頁参照)。ましてや原告は本件土地の正当な賃借人なのであるから、仮に賃貸人の承諾が得られないという事情があるとしてもこれをもって被告栃尾市に供給を拒絶する正当の事由があるということはできない。≪証拠省略≫によれば被告栃尾市のガス供給条例第一一条第三項にガス供給施設の設置について地主、家主等の承諾を要する旨の規定があることが認められるが、右の規定はガス供給施設のための土地または建物部分の占有について供給申込者において賃貸人等の承諾を得ておくことを期待する趣旨を表明したいわゆる訓示規定であって、この規定があることを根拠として賃貸人の承諾のない場合のガス供給を拒み得るものでないことは勿論、供給のための工事を拒み得る趣旨のものでもない。
以上の次第で、他に正当の事由の存在を認めるに足りない本件にあっては被告栃尾市において原告のガスおよび水の供給申込を拒むことはガス、水道事業者として違法であって許されない。同被告に対してガスおよび水の供給を求める原告の請求は理由があるのでこれを認容すべきである。
つぎに被告栃尾市がガス、水道事業者として当然に原告に対してその供給をなす義務を負うこと前示のとおりである以上、ガスおよび水の供給は本件土地の賃貸人である被告常安寺の意思の如何になんらかかわりあるものではない。同被告の本件土地使用の承諾あるいは不承諾はガスおよび水の供給についてなんらの法律上の効果を及ぼすものではないからかかる意思表示を求めることは本来無意味のことである。しかして被告常安寺に対して被告栃尾市に対する承諾の意思表示を求める訴はその利益を欠くものである。原告がガスもしくは水の供給を受け、あるいはその供給を受けるための施設をすることを妨害する者があるときには、それが賃貸人としての地位を有する者であるとそれ以外の者であるとを問わず直接にその妨害行為の排除を求めればそれで足りるわけである。従って原告の被告常安寺に対する訴はその余の点を判断するまでもなく不適法としてこれを却下する。
よって訴訟費用の負担については民事訴訟法第九二条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 宮本康昭)
<以下省略>